最近では、「老前整理」という言葉がラジオやインターネットなどのメディアでよく目にしたり、耳にしたりするようになりました。
しかし、同様の言葉で「生前整理」や「遺品整理」などといった言葉もよく聞かれます。
この言葉の違いについてはっきりと説明しろと言われると、ほとんどの方が困ってしまうのではないでしょうか。
そもそも、老前整理というものがどんな方法で、なんのためにおこなわれるものなのか、ということを明確に知っている方はまだまだ少ないはずです。
そこで今回は、
「老前整理というくらいだから、老人とはいかないまでも、それなりに年を取ってからやることでしょう?」
「いろいろ整理するということはなんとなく知っているけど、老前整理にはなにかメリットがあるの?」
といった疑問に対してお応えすべく、老前整理について、そのメリットや方法について詳しく解説していきます。
そもそも老前整理とは何なのか?
老前整理とは、その名の示すとおり「老いる前に整理する」ということで、坂岡洋子さんという方により提唱されたものです。
年齢的には一般的に40代〜50代を対象にした言葉であり、老年期や高齢期と言われる時期に到達するまでの間に、身辺整理を進めていくことを扱うます。
たとえば、40代〜50代であれば、実際に動き回る体力や気力がまだ十分にあるので、老前整理を行うにあたって適切だとされていますが、30代のように若い間に老前整理を行うこともおかしなことではありません。
つまり、自分が老いてしまう前に整理を始めようという意味合いだけでなく、万が一のときに備えるための整理を行うことも老前整理の一部だとされています。
何のために老前整理が必要なのか?
それでは、どうして老前整理というものが必要とされているのでしょうか?
老前整理は、一言で言うと
・自分がどんなものを持っているのかを正しく把握し、不要なものを処分する
というものなのですが、そこには
・不要なものを処分するというだけではなく、これまでの人生を振り返るきっかけとする
・これからの人生をより良いものにすることを目的として身辺整理をする
という意味合いも含まれています。
そして老前整理を行った結果、不用品を処分し、遺産として遺すべきものをはっきりさせることができますし、自分が死亡したあとに遺族が困ることのないように備えることにもつながります。
生前整理や断捨離との違いは何なのか?
「生前整理とか断捨離とかいう言葉を聞いたことがあるけど、それも同じようなものなの?」
と気になった方もいらっしゃるでしょう。
確かに、同じような言葉として、生前整理や断捨離、もしくは遺品整理などがありますし、これらはすべて整理整頓に関する言葉です。
これらの言葉を違いがわかるように簡単にまとめると、下記のようになります。
老前整理 | 自分が老いる前に身辺整理をおこなう |
生前整理 | 自分が死亡する前に身辺整理をおこなう |
遺品整理 | 亡くなった方の遺品を処分する |
断捨離 | 不要なものを捨て、ものへの執着から逃れる |
つまり、
- 老前整理は、生前整理よりも早い段階から身辺整理に取り組む
- 断捨離は、老前整理や生前整理とは「亡くなる前に身辺整理を行う」という考え方とは根本的に異なる
- 遺品整理は、亡くなった方のものを遺族が整理する
という点でそれぞれの考え方が異なっています。
老前整理のメリット
ここまでは、老前整理の目的や意味について考えてきました。
それでは、老前整理に取り組むことで、どんなメリットがもたらされるのでしょうか。
まず、根本的かつ絶対的なメリットとして考えられるのは、次のことがあげられます。
・自分の意志で自分のものを(死後も含めて)コントロールできること
もし老前整理をすることなく、仮に自分が突然、この世を去ったとします。
突然遺された家族は遺品整理に追われることになりますし、特に遺言がうまく作成されていなければ、何をどうしたらよいのか、途方にくれてしまうことにもなりかねません。
そんな事態を避けるためには、やはり老前整理が有効なのです。
まだ自分が元気に生きているうちから死後のことを考えて行動するということは、暗く悲観的なことに感じるという方もいらっしゃると思います。
しかし、老前整理は、死を目前にして「どのように生きることを諦めるか」という目的によっておこなわれるものではありません。
逆に、老前整理によって産み出されるものは、
・自分自身がこれから先の人生を前向きかつ丁寧に生きていくための気持ちの整理
・遺される家族や近しい人を想う配慮の心
であるといえるのです。
もう少し細かい観点からも、老前整理のメリットについて考えてみましょう。
自分が元気に動けるうちに整理ができる
あくまでも自分が老いる前に身辺整理をすることが老前整理であり、いつまでに老前整理を始めなければいけない、というようなルールは存在しません。
しかし、年を重ねるごとに病気やケガによって身体を動かすことが不自由になってしまうというリスクはどうしても高くなります。
また、人間は若ければ若いほど体力が豊かにあるはずですから、若くて自由に動けるうちに部屋を整理する方が効率的であることは確実です。
いらないものを処分するとか、家の中でいろいろなものを探し回るということには、どうしても体力が必要です。
それに、もし30代や40代という若い期間に老前整理を始めるとすれば、無駄なものを買ったり、いつまでも取っておいたりするということを控えるような意識が芽生えるきっかけとなるでしょう。
また、50代になってからの老前整理は、冠婚葬祭や親の介護などの経験値が増えていることも多いので、若いころよりももっと現実的に老前整理をおこなうことができます。
家族への負担を軽減できる
老前整理によってものを減らすことができれば、それだけで家族への負担が少なくなります。
たとえば、年を取って寝込みがちになってしまったとき、身の周りにものがあふれていたならば、掃除や処分を家族に頼まなければなりません。
また、整理整頓が行き届いていなければ、思いがけない事故が発生するおそれがありますし、家族への心配や不安を増やすことにもなります。
また、老前整理によって自分の財産を整理することができれば、どんな財産を誰に相続させるのかということもじっくり考えられるようになります。
財産目録のようにリストアップし、遺言を作成することもとても大切です。
自分が死亡したときに財産目録や遺言があれば、遺された家族が自分の遺産をめぐるトラブルに巻き込まれることはかなり少なくなります。
また、40代~50代というと、徐々に病気などのリスクが高まる年齢となりますが、少子高齢化が進む現代においては、まだまだ若くて元気であることは確かです。
ということは、家族にどんなものを遺すべきか、という意識をもつことが希薄で、不要なものを溜めこんでしまっているということも十分に考えられます。
つまり、40代~50代で老前整理を始めてみる、ということはとても自然なことなのです。
逆に、もっと若い世代の目線で考えると、自分自身というよりも、親の身の周りにものがあふれていることが気にかかるというケースもあるでしょう。
老前整理は死を前提としておこなうものであるため、自分の親に対して老前整理をすすめたいと考えても、その言葉を持ち出すことはためらわれる場合もあるはずです。
しかし老前整理は、いわば死に対して前向きな取り組みです。
老前整理について正しく理解し、自分の親に、一緒に取り組んでみようという姿勢を見せることは大切なことといえます。
そうして老前整理がおこなわれたならば、自分の親にとってもメリットがあり、その家族である自分にとってもメリットが生まれるのです。
老後の快適な暮らしのためにもなる
単純に、不要なものの少ないスッキリした暮らしは快適なものです。
家の床に転がっていたものなどに足を取られて転倒し、骨折してしまうという高齢者の事故は珍しくありませんし、なんらかの理由で車椅子生活を送ることになった場合には、移動スペースの確保が必須となります。
また、若いころから徐々にうまく老前整理された暮らしを送ることができていれば、年を取ってから焦って生前整理をする必要がありません。
「生前整理しなければならないと思うのに、身体がうまくいうことを聞いてくれなくて全然整理がはかどらない…。」
という悩みは実際によく耳にしますし、このような状態が継続していては非常に強いストレスがかかります。
つまり、老前整理は自分の老後にとって物理的・精神的にも快適な状況をもたらしてくれるものなのです。
これで完璧!老前整理のやり方&コツ解説
老前整理のやり方は、一言、「不要なものを処分する」ということに尽きます。
かといって、断捨離のように身の周りのものをどんどん減らすという目的ではありませんから、何でもかんでも捨ててしまえばよいというものではありません。
余分なものを処分し、家族のために遺すものをはっきりさせたり、自分のこれからの生活をよりよくさせたりすることを目的として、シェイプアップするというイメージです。
そのため、まず必要なものと不要なものの区別をつけることが老前整理の第一歩であり、最も単純にして有効な手段だということになります。
もちろん、ほかにも老前整理において念頭に置いておきたいコツがあるので、いくつか紹介していきます。
大切なのは、「使わないもの」だと決断する気持ち
まず最初に大切なのは、身の周りのものに対して、「これはもう使わないものだから処分してしまおう」と決断するためのき然とした気持ちを持つことです。
もし、今、身の周りにあるものをあまり処分することなく、あるべきところに戻すだけという整理整頓の気持ちで老前整理に取り組んだとしたら、あまりものの数は変わらないでしょう。
これまで身の周りに積み重ねてこられたものたちには、持ち主の「まだ使うかもしれないから、とっておこう」や「思い出の品だから、捨てずに置いておこう」といった気持ちがこもっているからです。
では、どうすれば「使わないもの」だとうまく決断することができるようになるのでしょうか。
それは、
「必要なものとは、今まさに自分が使っているものだ」
という判断基準を明確に持つことです。
たとえば、思い入れのある衣類やアクセサリーなど、いつまでもタンスや引き出しの奥に眠っていて、実際にはもう長い間使われていないものがたくさんあるはずです。
そのようにあまり使われていないものについては、はっきりと「使わないもの」だと決め、処分するということが大切です。
もし踏ん切りがつかずに悩んでしまうというときには、「これからのワンシーズンで使わなかった場合には、処分しよう」というように、自分で期限を決めて様子をみるということがおすすめです。
※処分に困ったものについて様子を見るために「保留ボックス」を作ることもおすすめです。
一度で完璧にやってしまおうと思わない
老前整理は、死を目前にして急いで行うわけではありませんから、時間にはある程度のゆとりがあります。
そのため、一度老前整理を決意したからといって、「今日中に老前整理を終わらせてやる!」などと意気込んでしまわないことが大切です。
老前整理では、ものを捨てるかどうかの判断に迷ったり、思い出の品を探しているうちについ時間を取られてしまったりしているうちに時間が経過してしまいます。
あまりにも完璧に老前整理を済ませてしまうことを意識すると、このように思いの外作業が進まないことがきっかけに、作業に嫌気がさしてしまうこともあります。
そのため、一度で完璧に老前整理を済ませてしまおうという意識をもつのではなく、
・今日はこの引き出しをしっかり整理しよう
・次のまとまった休みにはこのタンスを整理しよう
など、達成しやすい目標を定めて徐々に進めていくことが老前整理のコツです。
日ごろからの意識を変えることも有効
「もったいない」という意識は美徳であり、ものを大切にすることはとてもよいことです。よって、ものを捨てることに対する抵抗意識があるという方も多いことでしょう。
しかし、不要なものを溜めこむことは、確かにものを捨てているわけではありませんが、それは果たして本当にものを大切にしていると言えるのでしょうか。
老前整理では不要なものを処分するということに目が行きがちですが、実は「ものをそもそも溜めこまない」という意識を持つこともとても大切なのです。
ものを買うときは本当に必要なものかどうかをしっかり判断することや、収納スペースにはいつもある程度の余裕を持つことを心がけるなど、日ごろから意識することも忘れてはいけない老前整理のコツです。
もし根本的な意識が変わらないままものが溜めこまれるとしたら、せっかくしっかり老前整理をおこなってスッキリした部屋や収納も、リバウンドを起こしてすぐにまた、ものであふれかえることになってしまいます。
老前整理は、生前整理業者の利用もおすすめ
近年では、フリーマーケットやリサイクルショップなどに加えて、部屋の整理整頓や生前整理・遺品整理をおこなう業者のニーズが高まっています。
老前整理においてもこれらの業者を利用することはもちろん有効です。
たとえば、ものを処分するといえば、ゴミとして処分する方法が一般的です。
ゴミとして処分するには、ゴミをまとめたり運搬して廃棄したりりする手間がかかりますし、その数が多ければ多いほど負担が増えます。
家具や家電など、大きいものであれば自分で運ぶことも難しく、そもそも処分にあたって費用が発生することになります。
そんなとき、生前整理業者に依頼することで、ゴミの運搬や廃棄のために自宅まで回収に来てもらうことはもちろん、まだ利用できるものについては買取を依頼することもできるのです。
自分の手で苦労して運搬した末、費用を支払って処分するよりも、業者に依頼して生前整理をおこなうほうが、はるかに効率的で経済的な場合があるのです。
しかも、捨てるという手段には抵抗がある場合でも、買取であれば買取られたものは次の誰かの手に渡ることになります。
ただ捨ててしまうよりも、大切なものを次の誰かの元に届けられるのであれば、積極的に処分してしまおうという気持ちにもなれます。
アクセサリーなどの小物類をはじめ、家具や家電であれば積極的に買い取りってもらえる業者も多いため、老前整理においても業者を利用するということはおすすめの方法です。
まとめ
老前整理とは、自分が年を取って動けなくなったり、急病で死亡してしまったり、という事態に見舞われるリスクを考え、まだ若いうちから身辺整理をすることをいいます。
そのため、40代〜50代から老前整理に取り組むことはとても有効で、30代から老前整理をスタートすることもおかしなことではありません。
また、老前整理には遺産として遺すべき自分の財産がはっきりわかるだけでなく、以下のようなメリットもあります。
・自分が元気に動けるうちに整理ができる
・家族への負担を軽減できる
・老後の快適な暮らしのためにもなる
老前整理を行うこと自体は、「いらないものを処分しよう」というはっきりした意志さえあれば可能ですから、とても難しいことではありません。
今回の記事では、自分なりの判断基準を繰り返すことや、一度で完璧にやってしまおうと思わないことなどの老前整理のコツも紹介してきました。
借りて、近年では生前整理業者を利用することで、手間や費用を節約して楽に老前整理に取り組むこともできるようになっています。
自分の身の周りの「もの」の数や大きさなどの状況に応じて、ベストなアプローチで老前整理に取り組むことがおすすめです。