着物を買取に出すときに、重要視されるものが「証紙」です。
証紙があるのとないのとでは、買取価格に差が出てしまいます。
普段、着物を着るときには必要のない証紙が、なぜ買取の際には重要なのでしょうか?
着物の証紙は何を意味するものなのかということも含めながら、着物の知識がない方にもわかりやすく紹介していきます。
着物の証紙とは
着物の証紙は、通常は着物の畳紙のなかに一緒に入っていることが多いものです。
「証紙」といっても、紙だけでできたものだけでなく、着物の端切れにシールとなって貼ってあるものもあります。
「商標登録」という文字や「証」という文字が入っていれば、それがその着物の証紙です。ひとことで着物の証紙を説明すると、着物の価値を表している証明書ということになります。
シャネルやヴィトンなどの高級ブランドのバックや洋服に付いているギャランティーカードと同じように「本物」であることを証明してくれる大切なものです。
しかし証紙はどんな着物にも付いているものではなく、高級着物と呼ばれるランクの着物に付いているものと考えましょう。
着物を着るときに証紙は必要ありませんが、着物の価値を証明する大事なものなので、大切に保管しておくことをおすすめします。
証紙の種類
着物の証紙には、大きく分けて3つの種類があります。
それぞれの項目ごとに、どのような意味があってその証紙が付けられているのかを紹介していきます。
ここで紹介する証紙の種類は、着物の証紙の基本的な部分となりますのでしっかり押さえておきましょう。
着物の種類を表す証紙
着物にはさまざまな種類がありますが、その種類を表す証紙があります。
たとえば、京友禅や本場大島紬、本場黄八丈など、有名な着物の種類やブランドを証明するために用いられます。
着物の種類によって証紙の色や書き方には違いがあり、本物の証紙を見極めるには、どのブランドがどのような証紙を発行しているかを知っておく必要があります。
伝統工芸品や重要無形文化財を表す証紙
質の高い工芸技術を保護する取り組みとして、経済産業大臣が伝統工芸品を、文部科学大臣が重要無形文化財を指定しており、それぞれに認定された着物には証紙が発行されます。
伝統工芸品に認定された着物には、伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づいて作られたオリジナルマークが証紙になっています。
重要無形文化財に認定された着物は、着物の種類を表す証紙のなかに一緒に記載される形での発行となっています。
生地の品質を表す証紙
着物には化学繊維であるポリエステルやデニム生地、ウール、麻など、現在ではさまざまな生地が使われるようになりました。
しかし、着物の価値として一番高いとされる生地は絹100%です。
絹100%で仕立てられた着物に付いている証紙が、絹の品質を表す証紙となります。
絹の着物といっても日本の絹が上等品とされており、近年では海外から輸入された安い絹を使って着物が作られることがありますが、海外製のものにはこの証紙は付きません。
絹の品質を表す証紙は2種類あり、輸入した繭や絹糸を使い日本で染めて仕立てた着物には「日本の絹」の証紙が付きます。
蚕や繭の時点から日本産のものを使用し、すべての工程を日本でおこなって仕立てた着物には「日本の絹純国産」の証紙が付きます。
絹の品質を表す証紙は、シールタイプのものが多くみられますが、なかにはスタンプで押印されているものもあるようです。
証紙でわかること
着物の証紙からは、たくさんの項目を読み取ることができます。
着物の産地
着物は産地によって特徴的な織り方がされるので、着物の産地を知ることは重要とされています。
たとえば有名な大島紬の着物でも、ひとつの産地だけで作られているのではなく、奄美大島や宮崎県、鹿児島などさまざまな地域で作られているのです。
このことから、証紙にはどこで作られた着物なのかを証明するための記載がされています。
着物の製造元
着物の製造元は、言い換えれば織り元です。
証紙自体は、着物ブランドの組合が発行しているので、織り元が組合に加入していないと証紙は発行されません。
組合に加入するためには、組合に技術を認められなければ加入できないので、着物の買い手は証紙があることで安心して着物を購入できるのです。
伝統工芸品であるか否か
経済産業大臣から伝統工芸品と認められた着物の証紙には、上半分に「振」の文字が、下半分には日の丸が描かれたマークが入っています。
着物の織り方
着物には、大きく分けて手織りと機械織りという2パターンの織り方があります。
どちらの織り方で織られた着物なのかがわかるように記載されているのです。
着物の原料名
着物は絹が多く使われているほど価値が高いと言われていますが、どれだけ絹を使って仕立てられているかがわかるようになっています。
たとえば博多織の着物の場合、絹を50%使用した着物には金色の証紙、絹を50%未満使用した着物には青色の証紙を付けることで着物の品質を表しているのです。
着物の染め方
着物を仕立てる際に染められている糸を使う場合、その糸の染め方や染めている材料がわかるようになっています。
着物の染め方には、泥染めや藍染め、泥藍染めなどさまざまな染め方がありますが、証紙の色や図でどのような染め方がされているかを知ることができるのです。
このように、着物の証紙から6つの内容について知ることができます。
証紙がない着物は偽物なのか
証紙は、伝統工芸品の組合が発行しているものなので、いくら高い技術で作られた着物でもその着物を仕立てた製造元が組合に加入していなければ証紙は付きません。
したがって、証紙がない着物は偽物であるとは断定できないのが現状です。
有名な着物の代表格である加賀友禅の着物を例にとると、いくら加賀友禅の着物でも製造元が加賀友禅の組合に加入していない場合は証紙が付きません。
証紙が付くと証紙分の料金が着物の値段に上乗せされ高額になることから、証紙をあえて付けないという製造元もあります。
これは、できるだけ安くして多くの人に購入してもらいたいという考え方です。
また近年では、着物の仕立てを「伝統」ではなく「アート」ととらえる作家も誕生しており、自由に制作したいという作家の意志で組合に入らないこともあります。
証紙がないと買取価格に影響する
着物そのものの品質と、証紙のありなしは必ずしも関係があるとは言い切れませんが、証紙がない着物に比べ、証紙のある着物のほうが圧倒的に買取価格はアップします。
なぜなら先ほども説明したとおり、証紙には産地や製造元、使われている材料などを知るための項目が書かれているので、その着物の価値を簡単に証明することができます。
逆にいえば、いくら高級ブランドの着物を持っていても、証紙がないとそれが「本物」であることの証明ができません。
証紙は着物を買取に出すにあたって、簡単にその着物の価値を証明する材料になるので、証紙がついている着物は、証紙とセットで査定に出すようにしましょう。
注意しなければならないのは、証紙にも偽物があるということです。偽物の証紙の特徴として、割り印が押されていないもの、図が違うものなどが挙げられます。
しかし単純に証紙に書かれている図が違うからという理由で、その証紙が偽物とはすぐに判定できません。
証紙は、作られた時期によってデザインや色が変わる場合もあるので、しっかりと公式ホームページなどで調べてから判断しましょう。
証紙の保管方法でよく用いられている方法は、着物と一緒に畳紙に包んで保管する方法です。
人によっては、ファイルにきれいに保管している人もいます。
ファイルで別に保管する場合は、どの証紙がどの着物のものなのかがわかるようにしておくと買取に出すときに迷わずにすみます。
着物の購入時に証紙が付いていた着物でも、保管している段階で証紙をなくしてしまうと、着物の価値を証明できませんので注意してください。
有名な着物に付いている証紙の特徴
証紙は、発行している組合によってもさまざまな種類があります。
有名な着物に付いている証紙の特徴を理解することで、偽物の証紙を見分けるのに役立つこともあるのです。
ここからは、3つの有名な着物を例に挙げて、それぞれの特徴を詳しく紹介していきます。証紙は、年代によって変更されることもあるので、参考程度に覚えておいてください。
本場大島紬の証紙
本場大島紬の証紙は、本場大島紬協同組合が発行しており、登録商標は旗印です。
手織りか機械織りかでも証紙は違いますし、染め方によっても証紙に違いがあります。
経緯絣の手織りの場合、旗印はブルーで鹿児島県本場大島紬協同組合連合会発行の伝統工芸品マークのシールが貼り付けてあります。
緯絣の手織りの場合、旗印は経緯絣の手織りの場合と同様ブルーで、「織絣」という捺印がされており、鹿児島県本場大島紬協同組合連合会発行の伝統工芸品マークのシールが貼り付けてあります。
緯絣の機械織りの場合、旗印はブルーで「織絣」という捺印がされており、鹿児島県絹織物工業組合発行の伝統工芸品マークが貼り付けてあります。
縞大島の機械織りの場合、旗印はオレンジで金色の「正絹」シールが貼り付けてあります。
本場大島紬の証紙は、古代染色純泥染と古代染色純植物藍の2種類です。
泥染めの基準をクリアした着物には「古代染色純泥染」の証紙が付きますが、藍泥染めや色泥染めなど一部のみに泥が使われている染め方にも適用されています。
藍染めの基準をクリアした着物には、「古代染色純植物藍」の証紙が貼り付けられます。
結城紬の証紙
結城紬の証紙で大きな特徴として挙げられる点は、「結」と表示されている証紙と「紬」と表示されている証紙の2種類があることです。
この2つの違いは発行元の違いです。
「結」が表示されている証紙の発行元は、本場結城紬卸商協同組合で、「紬」と表示されている証紙の発行元は、茨城県結城郡織物協同組合が発行しています。
結城紬は地機で織られているものと高機で織られているものがあり、見ただけではほとんどの人が区別できません。
しかし証紙を見れば、地機で織られた着物にはグリーンの証紙が、高機で織られている着物にはオレンジの証紙が発行されます。
本場結城紬は、それに加え絹100%表示と組合責任証4種類が付いています。
組合責任証の内容は、真綿手紬糸と書いた品質表示と産地証明、糸取りをしている女性の図、検査証の4種類です。
検査証の証紙は、詳細は公表されていませんが、幅や長さ、打ち込み本数、模様ずれがないかなど、厳しく設定された基準の16項目を合格した着物だけに付けられる証紙です。
これらがすべて貼られていることが、本場結城紬の証となります。
博多織の証紙
博多織には、
- 献上
- 変り献上
- 平博多
- 間道
- 総浮
- 捩り織
- 重ね織り
- 絵緯博多
- 着尺
- 袴
といった多くの種類があります。
博多織に付けられている証紙の特徴は、着物の原材料によって色分けされていることです。博多織の証紙は博多織工業組合が発行しており、博多織の公式ホームページには、現在7種類の証紙が掲載されています。
絹が50%以上使われて仕立てられた着物には金色の証紙、絹が50%未満で作られた着物には青色の証紙が付けられることで区別されています。
経糸が本絹、緯糸が本絹以外仕立てられた着物には緑色、本絹以外の絹糸を使って仕立てられた紫色の証紙が貼られていましたが、この2つは平成26年以前に作られた着物に付けられており、現在は発行されていません。
さらに、丸証紙と角証紙に分けられ、小物類には丸証紙、着物には角証紙が基本です。
手織り製品の場合は、手織りしている女性のマークが入った証紙が貼られます。着尺と袴地の証紙は、正方形の角証紙です。
これらの証紙が付けられた博多織の着物のなかでも、伝統的な技法で織られたとくに品質の良い着物には、経済産業大臣が指定した「伝統的工芸品の証」シールが貼り付けられます。
まとめ
・証紙は着物の価値を証明するもの
・すべての着物に証紙がついているわけではない
・着物の証紙からは6つの内容を知ることができる
・証紙がなくても偽物とは限らない
・有名な着物でも証紙をあえて発行していないこともある
・ブランドごとの証紙の特徴を把握していないと、偽物の証紙を信じて購入してしまうおそれもある
着物の証紙は、買取の際に金額を決めるとても大切なものです。
着物を購入したら、着物と同じように大切に保管しておく必要があります。
買取査定をする際は、着物と一緒に証紙も出して買取価格をアップさせましょう。